今年のバンクーバーは例年よりも雨が多くて寒い春を迎えているようです。せっかくの桜に花散らしの雨。
さて、日本ではスープストックが炎上しているというニュースを見ました。なぜ?と思って見てみるとその理由が「離乳食の無償提供」だったことに驚きと共に2ヶ月の子を育てている母親としてなんとなく寂しい気持ちになりました。
なぜ、子育てしている親への配慮をしてくれる企業が批判されるのか?また、炎上に対するスープストックの対応が素晴らしかったので、見習うべき点をまとめたいと思います。
いち広報パーソンとしては学びが多く、いち母親としては理念に泣けました。
危機管理広報とは?
危機管理広報とは、会社の評判に関わるような危機的な事態が起きた時に被害や損害を最小限にするための対応を行う広報活動のことです。
事件や事故はもちろんですが、昨今はSNSの炎上もこの中に含まれます。
リスクを想定して万が一に備えて対応方針やマニュアルを準備しておくことも重要です。
しかし、今回の離乳食無料による批判は、企業側で予測できていたかというとなかなか難しかったのではないかと思います。
見習うべきスープストックの対応
よく危機管理広報は初動が大切だと言われます。もちろん、すぐに対応するというスピード感も大事なのですが、今回の場合は何か悪いことをしたわけではないので、すぐに謝罪や経緯の説明が必要になったわけではありません。
スープストックの声明は1週間後に出されました。その理由を、自分たちの存在意義を考えていたと言っており、今回のように社会的に良いことをしたのに炎上したという場合には、とても素晴らしい対応だと感じます。
多くの人は好意的に受け止めていると思いますが、それはスープストックを普段から利用しているかでいうとそうではない人が多いのでは?と思います。
上がっている批判を見ると、今のスープストックを「1人で利用しやすい場所」として捉えて利用している顧客が、自分の居場所が取られるという印象を受けました。
ここで、企業側の理念や方針が大切になってくるのですが、そもそもターゲットをもし「女性の1人客に絞って展開したい」と考えていたとしたら、ターゲットであり、ロイヤルカスタマーと考える女性の1人客に対して「離乳食無償提供」という案は最初からボツになるはずです。
スープストックが「離乳食無償提供」というサービスを形にするまでに様々なアクションが必要であったはずで、思いつきでポンとできるものでもありません。
そこには、理念に基づく意思決定がされていたと感じられます。
だからこそ、単なる謝罪ではなく、誠実に自分たちの理念や姿勢を少し間をおいて発信した点については、見習うべき対応だと思いました。
理念経営の大切さ
スープストックの声明の理念と姿勢を見ていただきたいと思います。
私たちスープストックトーキョーの企業理念は、「世の中の体温をあげる」です。
スープという料理を通じて身体の体温をあげるだけではなく、心の体温をあげたい。
そんな願いを一杯のスープに込めた事業を行っています。その理念のもと、さまざまな理由で食べることへの制約があったり、自由な食事がままならないという方々の助けになれればと「Soup for all!」という食のバリアフリーの取り組みを推進しています。
(中略)
私たちは、お客様を年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客様だけを優遇するような考えはありません。
私たちは、私たちのスープやサービスに価値を見出していただけるすべての方々の体温をあげていきたいと心から願っています。皆さまからのご意見を受け止めつつ、これからも変わらずひとりひとりのお客様を大切にしていきます。
スープストックトーキョーのウェブサイトより
https://www.soup-stock-tokyo.com/story/sst.babyfood20230426/
既存のお客様のことにも配慮しつつも、媚びるわけではなく、しっかりと自分たちの理念を伝えています。
私は理念が事業を持続させるキーになると思っています。ここで特定の顧客のみを大切にする姿勢を見せてしまっては、本来自分たちがやりたかったこと、成し遂げたかったことは果たせなくなってしまいます。
事業を通じて社会に貢献するということは、時に批判もあるかもしれませんが、社会の反響に対して自分たちがどのような考えをもって事業を行っているのかをブレずに一貫して発信することが必要だと思います。
ピンチはチャンスと言いますが、こういう危機的な時にこそ信頼をアップさせるチャンスだと感じます。
“良いこと”をしても叩かれるのはなぜか?
“良いこと“としたのは、良い悪いは人の置かれている立場によって違うと思うからです。相手の立場に立つということは、高度な脳の使い方だそうで、うちの5歳の息子にはまだ難しいと言われています。
でも、きっと大人の脳でも難しいはずなんです。自分が経験したことのない状況からその人の悩みや感情を想像するには、実際にその状況にある人の話しを何らかの形で知るしかないです。例えばインタビュー、アンケート、書籍、映画など。
また、少し話しはそれますが、社会的に良いとされることは、大人が子どもに教えていかなければその考えは育ちません。守るべきルールとは違う、自分で考えて行動する道徳心のようなものが大切だと思います。
日本の社会は残念ながら、「子育てをする親に厳しい」と私は感じます。カナダに来てより確信しました。
カナダでは、買い物をしている時に子供が騒いでいると「ずいぶん大きな声が出るんだね!元気だね!」とスーパーの店員さんや買い物をするお客さんが話しかけてくれたりします。親の買い物に付き合わされて、誰かに注目してもらいたい子どもたちですから、店員さんに話しかけられると無駄に騒がずに嬉しそうに会話したり、手を振ったりしています。
もちろん親としては公共の場で子供には静かにするように伝えていますが、原始人のような子どもが言われた通りにしないことは明白です(笑)
日本にいた頃は、周りからの「静かにさせろよ」という非言語による無言のプレッシャー、時には「うるせーな」という罵声を浴びせられることもありました。
自分が1番大切という人は多くいますし、私も子どもを育てているんだから何をしても許されるだろ!などとは思いません。
一方にとっての”良いこと”は立場が変われば良いことではなくなる場合もあります。
つまり、絶対に良いことだと思って発信しても、思わぬ反応が返ってくる場合もあることを念頭に置いて発信すべきだと思っています。
こんな悪い反応もあるのでは?ということを予めリスクマネジメントとして洗い出しておくことも有効だと思います。
SNS時代だからこそ広報の力が必要
SNSによって自分の意見が発信しやすくなった一方で、心無い反応や批判も匿名でしやすい時代になってしまいました。
全ての人にとっての”良いこと”は実質ないと思います。
だからこそ、自分たちがどんな理念でどんな姿勢で事業を行っているのか?に立ち戻り、世の中に発信することは持続的な事業を行うためにも、非常に大切だと思うのです。
今の時代だからこそ、お金を支払えばできる宣伝広告だけではなく、地道な広報PRの力が必要だと感じています。
理念を言語化できていないのはとても勿体無いですし、それを発信しないのはもっと勿体無いです。
なぜこの事業を行っているのか?何を大事にしているのか?
理念の言語化や発信についてお悩みがあるようでしたら、ご相談ください。
社会を良くしたいという理念や姿勢に基づく事業や活動がどんどん世の中に広がってほしいなと思います。