クリスマス前後に日本に帰国予定なのですが、今回はカナダと日本のクリスマスの違いについて少し書いてみようと思います。

カナダのクリスマス
カナダでは、クリスマスは「家族で過ごす日」。基本的に祝日で、多くの人が仕事はお休みです。自宅で料理をして、家族や親戚が集まり、ゆっくり食卓を囲むのが定番の過ごし方。
料理といえば、Ginger Bread CookieやThanks Giving と同じく七面鳥の丸焼き。これがなかなかの大仕事で、朝4時頃から起きて下準備をし、何時間もかけてオーブンで焼き上げる家庭も珍しくありません。
しかも「誰が来て、何人で食べるのか?」によって七面鳥のサイズを計算しなければならず、いわゆる “Turkey Math” が存在します。人数が増えれば増えるほど大きな七面鳥が必要になり、ここもお母さんたちの負担ポイントのひとつ。
もちろん最近は、若い世代を中心にこうした伝統的な料理を好まなかったり、移民が多く食文化が多様化していたりと、家庭によってスタイルはさまざまです。それでも「外食する」という選択肢は少なく、クリスマス当日はレストランやお店が閉まっていることも多いのがカナダらしさだなと感じます。

日本のクリスマスとの違い
一方で日本のクリスマス。いつからそうなったのか不思議ですが、宗教的な意味合いはかなり薄く、「お祭り」「イベント」のような位置づけですよね。恋人や友達と過ごす日、というイメージが強いのも特徴的です。
さらに面白いのが、クリスマスケーキとクリスマスチキンの存在。七面鳥が一般的ではない日本では、その代わりとしてチキン文化が根づいたのかもしれませんが、ケンタッキーをはじめ、各ブランドが「クリスマス専用チキン」を展開しているのは、北米の人たちからするとかなり不思議な光景のようです。
マーケティングの大成功事例

「なんでクリスマスなのにファストフード?」と驚かれることも多く、文化の違いを感じます。ケーキも同様で、もともとクリスマスにケーキを食べる習慣がない国から見ると、バレンタインのチョコレートと同じく、日本のマーケティングの大成功例に映るようです。
マーケティングの視点で見ると、日本のクリスマス文化は「文化そのものを作った」非常に完成度の高い成功事例と言えます。欧米に存在する「クリスマス=七面鳥」という前提が日本にはなかった中で、その空白にチキンやケーキという分かりやすい代替を提示し、「この日にこれを食べるもの」という役割を定着させました。ゼロから習慣を生み出したのではなく、本来あるはずのピースを埋める形で提案した点が、違和感なく受け入れられた大きな要因です。
また、宗教的な意味づけをほとんど行わず、「特別な日」「年に一度のイベント」「家族や大切な人と同じものを食べる」という体験価値に徹底的にフォーカスしたことも重要でした。意味を理解させるより、行動したくなる体験を先に作ることで、「食べるとクリスマスを感じる」状態が自然に生まれました。
さらに、年1回・短期間という非日常性を強く設計し、「今しかない」という希少性を最大化。多少高くても納得して購入される構造を作り出しています。加えて、「子どものため」「思い出作り」という感情を起点に、合理性より情緒が勝つ意思決定を生み出した点も、毎年繰り返される需要を支える重要な要素です。
デパ地下のケーキ売り場に並ぶ長蛇の列や予約完売といった光景は、「みんなやっている」という社会的証明を可視化し、文化をさらに強化します。こうした空気が自己増殖することで、クリスマスケーキやチキンは「選択肢」ではなく「やるのが当たり前」の行事食へと定着しました。
このように、日本のクリスマスは、文化の空白を見極め、体験・非日常性・感情・社会的証明を重ね合わせることで成立した、マーケティング視点で非常に学びの多い事例です。
わかっているのに買ってしまう
マーケティングに関わる仕事をしている身としては、「これは完全にマーケティングだな」と分かっていると、あえて買いたくなくなるひねくれた一面もあるのですが、それでも「子どものため」と言い訳をして、結局ケーキを買ってしまいます(笑)。ケーキがないと、なんだか寂しいと感じてしまうほど、日本のクリスマス文化として深く浸透していますよね。
恵比寿に住んでいた頃は、クリスマスイブになると駅前のアトレにクリスマスケーキのポップアップがずらりと並び、身動きが取れないほどの人の多さでした。正直「こんなにケーキ焼いて、本当に全部売れるの?」と思っていましたが、出せば売れるなら商売としてはやらない理由がないのでしょう。
ただ、原材料の高騰もあり、今やクリスマスケーキはちょっとした高級品。それでも毎年この時期になると、なんだかんだで食べてしまうのが日本のクリスマス。
ということで、今年もきっとケーキは食べると思いますが、皆さまもそれぞれの場所で、良いクリスマスをお過ごしください。

