春になると、母たちの戦いが始まる。カナダのサマーキャンプ争奪戦である。

カナダの小学校の夏休みは長い。丸々2ヶ月ある。日本の夏休みの感覚でいると、ちょっとしたカルチャーショックである。学童的なデイケアに入れている家庭は、夏休みもそのまま対応してもらえるから安心だ。でも、我が家のようにデイケアに入っていない場合は、2ヶ月間、子どもとどう過ごすかを考えなくてはならない。この「どう過ごすか問題」が、思った以上に重い。

自治体のコミュニティセンターがやっているサマーキャンプは、質が良くて安いので大人気である。申し込み開始は3月。10時ぴったりにスタート。しかし10時の時点で満席になるのだ。10時”01分”では遅い。10時ジャストに申し込まなければならない。

今年は10時に会社のミーティングが入っていた。だから夫に「10時にこれをやってくれ」とレクチャーしようと思っていた。だが、子どもの体調不良でその計画は吹き飛んだ。気がついたのは10時30分。慌ててサイトを開いたら、もうすべてが「満席」の文字で埋まっていた。

無念である。なにせ、今年は我が家の目の前にコミュニティセンターが新しくオープンしたのだ。「あそこなら近いし、送迎も楽!」と期待していたのに…。料金も1週間150〜160ドルと良心的だった。

しかし、運はまだ残っていた。翌日にアート系のコミュニティセンターの申し込みがあり、そこで1週間分の枠を確保できた。こちらは250ドルとちょっとお高め。でも、施設が素晴らしい。メリーゴーランドがあったり、まるで日本の日光江戸村的な「古き良きカナダ」をイメージした屋外博物館的な場所である。「これならまあ250ドルでも仕方ないか…」と自分を納得させる。

しかし、夏休みは2ヶ月である。1週間埋まったところで、あと7週間以上あるのだ。

7月の最初の3週間は、カナダの学校がやっているサマースクールがある。これも争奪戦。申し込みは4月の頭。午前中は無料だが、午後は有料。そして午後の枠はすぐに埋まる。去年は午前中しか申し込めなかった。今年こそは午後もゲットしたい。ムービーメイキングのクラスが面白そうだからである。

あとの8月の3週間はパルクールのサマーキャンプに3連続で申し込んだ。息子はパルクールが大好きだし、コーチたちとも仲良しである。安心して送り出せる場所があるのはありがたい。問題は金額である。289ドル…×3週間…。冷静に計算したら「高っ」と思う。でも、8歳児を家で2ヶ月間エンターテインするのは無理だ。YouTubeとゲームで過ごすよりは、外で体を動かしてくれるほうが絶対にいい。だから、これは必要経費である。

それにしても、サマーキャンプ争奪戦は毎年熾烈である。日本の保育園争奪戦と同じ匂いがする。いや、こっちの方が難易度が高いかもしれない。なにせ情報が少ない。ホームページがしっかりしていないところも多く、「この情報で合ってるのか…?」と首をかしげることもしばしば。結局、地域のママ友ネットワークが頼りになるのだ。

春が勝負である。

春の動きで、夏が決まる。

母の戦いは、春に始まっているのである。