三男が最近よくしゃべる。

しかも、言葉のひとつひとつを、まるで宝石でも磨くかのように、丁寧にしゃべるのだ。

「なんで、おかし、たべちゃ、だめなの?」

「パパは、どこに、いるの?」

一文字一文字、置いていくように。

しかし、唯一、我が家に吹く奇妙な風、それが――

「ママー」

「なに?」

「アンパンマンのうんち」

……何?

これが、朝も昼も夜も寝る前も、かなりの頻度で飛んでくる。

こっちは真剣に答えてるのに、返ってくるのが「アンパンマンのうんち」。思考停止とはこのことだ。いや、彼の中では何かしらのロジックがあるのかもしれない。

もちろんYouTubeの影響だ。最近のお気に入りは、アンパンマンがトイレに行くという動画。だからって、なぜ「アンパンマンのうんち」だけを伝えて満足気に眠れるのか。

この子の脳内、カメラで覗いてみたい。

一方、次男。彼は「伝えたいこと」があふれており、言葉が追いついていない。だからいつも何を言っているのか分からない。

「ママー、キラメイジャーがね、なんとかでね、えっとえっと、かっこよかっただよー!」

分からない。でも最後に「かっこよかっただよー!」とくるので、

「へー、かっこよかったんだねー!」

と返すと、「うん!」と満足して笑う。

こちらもまた、不可解で、愛おしい。

兄弟って、本当に全然違う。

英語も混ざってくると、ちょっとした小さな通訳の世界になる。

「ママー、Fix itして」

「このおもちゃ、Brokenしちゃったんだよー」

「ママ、Sit downしてくれる?」

なんかもう、新しい言語みたいで、私はそれを普通に理解しながら生活している。すごい時代だ。

長男はというと――

コミュ力オバケである。

どこに行っても、誰にでも、すぐ話しかける。仲良くなる。人見知りって何?という勢い。だが、すごいのは「子ども嫌いな人」を察知する能力も持ち合わせていること。

「この人は話を聞いてくれるな」と思ったら、グイグイいく。

カナダに来てから出会った日本人ネットワーク、そのほとんどは長男が開拓したと言っても過言ではない。

「この人たち日本人だよ!」と、まるで探知機のように私たちに教えてくれる。

彼の「嗅覚」と「度胸」、そして「無意識の外交力」。私もO型で、社交性には自信があったが、長男を見ていると自信を失う。

O型の長男長女はコミュ力が高い――というインスタ投稿をどこかで見た。誰の投稿か、何の根拠かは一切分からない。でも、当たっている気がする。

こんな風に、毎日が混沌で、にぎやかで、よく分からないことで満ちている。

だけど、息子たちを見ていると、思うのだ。

ああ、カナダに来てよかったなあ、と。

いろんな国の人と出会い、いろんな文化のなかで育っていくこの子たちの未来は、私の知らない場所に向かっていて、そのことが、少し誇らしい。