北米で現地スタッフを採用することになったとき、日本と同じ感覚のままで大丈夫でしょうか。

先日、社内で、会議の開始時刻を守ることといった基本的な約束ごとを、経験のあるメンバーにも改めて共有する場面がありました。新入社員研修がない環境では、日本で入社時に一通り共有される前提が、そのまま共有されているとは限らないのだと感じました。

私はカナダに来て約4年になり、現在はカナダの消費財メーカーで、製品企画・開発の責任者(Product Lead)として働いています。日々のチーム運営の中で、日本の職場との違いを感じる場面が少なくありません。

この記事では、その違いを、北米進出を考える企業の方や、カナダで現地採用やチームづくりを担当する方に向けて、3つの軸で整理します。

なお、ここに書くのはBC州(ブリティッシュコロンビア州)にある私の勤務先での経験です。会社や業界、州によって違う部分があります。また、法律やビザに関わる部分は概要にとどめていますので、実際の判断の際は専門家にご相談ください。

1. 手当より、保険(Benefits)の中身が見られる

給与は月2回、手当はない

私の勤務先では、給与は月に2回支払われます。BC州では、法律でも少なくとも月2回の支払いが求められています。

一方で、日本では一般的な通勤手当や住宅手当はありません。給与は給与として支払い、それ以外の手当で調整するという考え方ではありません。

有給休暇は、働いた分だけ積み上がる

有給休暇は、決まった時期にまとめて付与されるのではなく、働いた分だけ積み上がっていく形です。なお、BC州の法律上の最低ラインは、勤続12か月で2週間、5年で3週間の年次休暇となっています。

福利厚生の中心は保険

手当の代わりに福利厚生の中心にあるのが、会社が加入する保険(Benefits)です。州の医療保険に加えて、私の勤務先では次のようなものがカバーされています。

  • 歯科
  • 眼科、メガネ・コンタクトレンズ
  • 処方薬
  • 旅行保険
  • 生命保険、障害保険
  • マッサージ、鍼灸、カイロプラクティック

カバーされる内容は、会社が加入している保険によって異なります。

経営者・採用担当の方へのヒント
現地で待遇を設計するときは、日本の手当の体系をそのまま持ち込むよりも、給与、有給休暇、保険(Benefits)をひとつのパッケージとして考える方が、現地の働き方になじみやすいと感じます。採用時に提示する条件も、保険の内容を含めて整理しておくと、候補者に伝わりやすくなります。

2. 人の入れ替わりを前提に、業務を仕組みと文書で回す

昇給は、本人のアピールが前提

昇給は約束されたものではなく、本人が自分の成果を伝え、アピールしていく必要があります。黙って成果を積み上げていれば評価される、という前提とは異なります。

雇用の終わり方はスピーディー

働く側が辞めるときは、2週間前に伝えて退職するケースが多いようです。これは、他社から私の勤務先に移ってきた人たちから聞いた話です。BC州の法律では、従業員側に退職の予告期間は定められておらず、2週間前の告知は慣習として定着しているものです。雇用契約で予告期間を定めることはできます。

また、レイオフは、その日に告げられてその日で終わることもあります。法律上は、勤続期間に応じて、書面での予告または予告に代わる補償を行うことが求められています(勤続3か月を超えると発生し、最大8週間分)。

海外からの人材の呼び寄せは、ハードルが高め

会社がスポンサーとなってワークビザを出すには、手間と費用がかかります。最近は、まず自国の人を雇おうという流れも感じます。日本から人材を送ることを前提にした計画は、早めに移民・ビザの専門家に確認しておくと安心です。

経営者・マネージャーの方へのヒント
人が短い予告期間で入れ替わりうる環境では、「その人にしかわからない仕事」が大きなリスクになります。業務の手順や判断の基準、取引先とのやり取りの経緯などを、日頃から文書に残しておくことが、そのまま事業の継続性につながります。あわせて、雇用契約に退職時の予告期間を明記することや、成果や昇給について話す場を定期的に設けることも、検討の価値があると思います。契約の内容は、現地の雇用法の専門家に確認してください。

3. マナーや期待値は、最初に言葉で伝える

期待値は、求人票(Job Description)の段階から始まっている

カナダで人を採用するときは、Job Description(職務内容をまとめた求人票)が非常に大切だと感じます。担う業務や求められることを求人の段階で具体的に示しておくと、入社後の期待値のすり合わせの土台になります。

また、求人サイトなどに公開する求人には、給与または給与レンジを記載します。BC州では2023年11月から、公開する求人に想定する給与または給与の幅を記載することが法律で求められています。「〇ドル以上」「最大〇ドル」「競争力のある給与」のように、上限や下限がはっきりしない書き方は認められていません。

日本でも、募集時に賃金を含む労働条件を示すことは職業安定法で求められており、給与を示すこと自体は共通しています。現地で求人を出すときは、日本の求人票を訳すだけでなく、現地の法律や求人の書き方に合わせて整えておくと安心です。具体的な記載方法は、現地の専門家に確認してください。

勤務時間:残業しないことが前提

私の勤務先では、残業はしないことが前提です。8時始業で7時55分に来た人が、4時25分に帰っても問題ありません。お昼休憩は30分で、無給という点は日本と同じです。BC州では、5時間を超えて続けて働く前に、30分以上の食事休憩を取らせることが法律で定められています。

一方、マネージャーは必要なときは残ることがあり、残業代は出ません。BC州の法律では、マネージャーは労働時間と残業の規定の対象外とされています。ただし、誰が「マネージャー」にあたるかは役職名ではなく職務内容で判断されるため、運用の際は確認が必要です。

基本の約束ごとは、共有されているとは限らない

冒頭でも触れたとおり、時間を守る、カメラをオンにする、勤務中は電話に出るといった基本的なことを、経験のある人にも伝える必要がある場面がありました。日本のような新入社員研修がないことが、ひとつの理由かもしれません。

また、報連相(報告・連絡・相談)や相手への配慮、任された仕事にきちんと対応する責任感は、日本の方が強いと感じます。どちらが良い悪いではなく、日本では組織の中で自然に共有されている前提が、こちらでは言葉にしないと共有されにくい、ということだと思います。

コミュニケーションの形式はシンプル

形式の面では、やり取りはシンプルです。

  • メールは「Hi」で始まり、用件をストレートに書く
  • 名刺はあるが、交換は必須ではない。握手とファーストネームで始まる
  • 仕事上のつながりは、LinkedInが主流

経営者・マネージャーの方へのヒント
日本では言わなくても伝わる期待値も、現地では最初に言葉にして共有しておくと、お互いに働きやすくなります。求人票で業務と給与を具体的に示すところから始まり、入社時には、勤務時間と連絡のつく時間帯、会議への参加の仕方、報告のタイミングと方法などを書面で示しておく方法があります。注意が必要になったときも、個人を責める形ではなく、「このチームではこうしています」というルールとして伝える方が、受け入れられやすいと感じます。

北米の相手に、自社の考えをどう言葉にして伝えるかについては、こちらの記事でもまとめています。
https://dp-connection.com/blog/7699

まとめ

カナダで人を雇い、チームを持つときに押さえておきたいのは、次の3つです。

  1. 手当より、保険(Benefits)を含めた待遇全体のパッケージが見られる
  2. 人の入れ替わりを前提に、業務を仕組みと文書で回す
  3. マナーや期待値は、求人票の段階から言葉で伝える

どちらが良い悪いではなく、違いを前提として知っておくだけで、現地でのすれ違いはかなり減らせると思います。

書き手について

白木賀南子(北米ブランドコミュニケーションパートナー/PRプロデューサー)
日本で事業開発やマーケティング・PRに携わったのち、現在はカナダの消費財メーカーで、製品企画・開発の責任者(Product Lead)として、製品のメッセージと市場への出し方を担当しています。並行して、日本のメーカーの海外向けプレスリリースや展示会メッセージを5年以上お手伝いしています。

無料相談のご案内

無料相談(1時間・オンライン・日本語)を行っています。日本時間の午前中に対応でき、事前の準備は必要ありません。この記事の3つ目の軸である「期待値を言葉にして伝える」を、御社が北米の現地チームや取引先に何をどう伝えるか、という形にあてはめて一緒に整理します。

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https://dp-connection.com/info

参考文献